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センター長のささやき 第14話
第14話 能登北部医療圏の医療人材不足をお話します
恒常的に不足していた医療人材
能登半島の面積は2173平方キロメートルと石川県の52%を占め9の市町で構成されており、能登北部地域は能登半島の52.05%の面積を占め、2020年度国勢調査33)によれば4市町で人口61114人、高齢化率52.0%です。能登の医療圏も能登北部、中部に分かれ、南部のかほく市と津幡町は石川中央医療圏に抱合されています。振り返ると、能登北部4公立病院の医師数は2009(平成21 年)年度52人と県が求める人数には13人不足でした。2003年度と比較しても11名減と底割れした状態でした。数少ない人員による当直と救急対応に疲弊するばかりであったそうです34)。
これには、いろいろ理由がありますが、最大の理由は関連大学からの医師派遣に齟齬をきたしたことにあります。
公立穴水総合病院は、2009年に問題点を以下のように指摘しています35) 。
医師不足の深刻な能登地域というテーマで
公立穴水総合病院における課題】として;
1.専門医の不足と特定診療科の閉鎖
専門医は全般的に不足しており、2005 年にも内科医師が1名となり、内科病棟が閉鎖され、病床率利用率は70%を下回っている(2007 年11 月現在)。なお、小児科・放射線・眼科・循環器科等の各科は非常勤医師による診療となっており、透析については金沢医科大学病院より医師の派遣をうけているが非常勤のため、派遣日以外は、院内の常勤医師での対応となり、マンパワーが不足するケースがあり、患者利便性の低下とともに同院の収益悪化の要因になっている。
2.地域内の医療連携体制の薄さ
当院では、穴水町内の医療機関を含め、能登北部医師会に所属する医療機関との医療連携を行っている。ただし、能登北部医療圏の4つの病院を含む全体の医療連携体制については「能登北部地域医療協議会」36)などで検討を行っているものの、現時点では効果的な医療連携体制の構築に至っていない。このような地域内の医療連携体制の薄さが、地域内で完結した医療を提供できず、患者が能登北部医療圏外の医療機関を受診せざるを得ない状況を生んでいる。このため、公立穴水総合病院の集患力が低下し、外来患者数の減少や経営悪化にも影響している。
行政と能登北部公立病院の人材確保の試み
ここでいう、「能登北部地域医療協議会」は石川県が能登北部医療圏の医師不足対策として、H20年4月に設置したものです(構成員 金沢大学附属病院、金沢医科大学病院、輪島市、珠洲市、穴水町、能登町、石川県及び地元4公立病院)。そして、H25年5月には石川県地域医療支援センター37)を設立して、地域医療を担う医師の養成、大学病院と連携して専門医(非常勤)の派遣を実施目的としました。
さらには、首都圏で活躍し豊富な人脈を持つ石川県ゆかりの医師を、「ふるさと石川の医療大使」38)として委嘱し、Uターン医師等の情報を収集し、石川県地域医療人材バンクに情報提供を求めました。そして、「ふるさと石川の医療を守る集いin能登懇談会」として毎年1回、能登北部公立4病院と石川県庁持ち回りで当該地区に各病院長や医師と県庁健康福祉部職員、谷本前知事も参加の研修会を行いました。私も2015年からその研修会に参加しました。このように、県、能登北部4公立病院、そして金沢大学・金沢医科大学がそれぞれ、医師不足対策に心血を注いできました。
能登北部医療圏の人材数の変遷
石川県の報告4)から能登北部医療圏の民間診療所勤務を含めた医師数を振り返って見ますと平成15年度63人、19年度54人、20年度51人、22年度56人、24年度61人、26年度60人、28年度59人、29年度64人、令和2年度97人、令和4年99名(このうちの地域枠と自治医科大卒業生は32.1%を占めている)と推移しています。2022年(令和4年)においては、石川県全体の医療施設従事医師数は増加傾向にあり、3,202人で、人口10万人あたり286人います。二次医療圏別に見ると、実人数で南加賀が419人、石川中央が2,444人、能登中部が 240 人、能登北部が99人となっています。 詳しく見ると能登北部公立4病院の常勤医師数は計56名です。ここまで数字の羅列で読み続けるのに辟易するかもしれませんが、もう少し、目をそらさないでください。
分析を続けますと、結局、能登北部医療圏の総医師数は99名(人口10万人当たり172名)ですが、それでも、医師が偏在して多い石川中央医療圏の医師数2444名(人口10万人当たり337名)と比べれば約半分と圧倒的に少ないのです。そして、呼吸器科医不在の能登北部公立病院は珠洲市総合病院(病床数199床)、公立宇出総合病院(120床)と変わりはないのです。
ちなみに、令和2年「医師・歯科医師・薬剤師調査」厚生労働省の統計39)では、歯科医数は能登北部医療圏の人口10万人当たり54.0人(石川中央医療圏では65.3人)、薬剤師数は能登北部医療圏の人口10万人当たり176.7人、病院薬剤師数は39.3人と石川中央医療圏の288.8人、65.1人それぞれと比較して4分の1弱と少ないのです。同じく、看護師数も能登北部医療圏では人口10万人当たり996.6人(石川中央医療圏1494.8人)、准看護師は344.8人(石川中央医療圏176.2人)、理学療法士数は52.4人(石川中央医療圏78.2人)、作業療法士数は23.1人(石川中央医療圏44.0人)、診療放射線技師数は41.4人(石川中央医療圏52.7人)、臨床検査技師数は44.7人(石川中央医療圏61.8人)、栄養士数は4.7人(石川中央医療圏8.4人)です。能登北部医療圏に医療人材が集まっていない状況がお分かりになればうれしいです。
センター長のつぶやき
結局、高齢化が進み、労働人口も流出し、過疎化が進んでいた地域の地域医療もまた、否応なしに機能も人材も縮小せざるを得ない状況がゆっくりと進行していた時に、能登半島地震が発生しました。地域医療問題が一挙に耀るみに浮かび上がったわけです。
世の中の趨勢は生活に便利な都会に人が集中し、そこに投資も集中し、さらに人を呼び込むという効率追求優先主義が闊歩しているような感じです。過疎化、少子化の田舎はただ取り残されるのを待つのみでしょうか?
石破総理は地方創生を強調しています。まだ、間に合うでしょうか?
参考資料
33.総務省統計局 2020年度国勢調査 stat.go.jp/data/kokusei/2020/kekka/final.html 2024年3月10日アクセス
34.小森和俊 能登北部医療圏の地域医療の現状と課題 ふるさと石川の医療を守るつどいin東京 平成21年10月12日 都市センターホテル.
35.公立穴水総合病院管理課 石川県穴水町:能登北部医療圏における遠隔医療・地域医療連携モデル事業 「医療における地域ICTの利用活用全国先進事業事例集」P32-38 H21年 3月総務省東北総合通信局作成
36.石川県健康福祉部医療対策課 能登北部地域医療協議会研修会 平成21年5月23日 pref.ishikawa.lg.jp/iryou/support/notohokubukyougikai.html 2024年3月10日アクセス
37. 石川県健康福祉部地域医療推進室 地域医療支援センターpref.ishikawa.lg.jp/iryou/support/chiikiiryoushiensenta.html 2016年11月21日. 2024年3月10日アクセス
38.谷本正憲 石川県における医師不足の現状と取り組み状況 ふるさと石川の医療を守る集いin 東京 平成21年10月12日 都市センターホテル
39.厚生労働省 令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 https://www.mhlw.go.jp>toukei>saikin>ishi 2024年3月10日アクセス