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咳と痰の話をしましょう

ページID:0106962 更新日:2025年10月22日更新 印刷ページ表示

咳と痰の話をしましょう(3話完結)

第1話

なぜ咳がでるのでしょうか?

 咳は、気管、気管支、のどや鼻、食道の粘膜に広く分布する咳センサー(受容体といいます)が異物などの刺激物の吸入・吸引などによって刺激され、その刺激が神経を遡り、脳の咳中枢が反応して、反射的に起こります。変なものが体内、特に気道内にはいらないように働いている防衛反応といえます。変なものは粉塵、冷気、細菌、ウイルスなど多岐にわたります。この防衛反応は、突然、予期しない困った質問や不利な状況に直面したときに「間」を取るために咳をするという形でも現れます。
 そして、空気の出入り口が一つしかない気道や肺の中に溜まった分泌物や老廃物と、不幸にして吸い込んだ異物を体外に出す生体防御反応であるわけです。ですから、生まれて一度も咳をしたことがないという人はいませんね。
 咳というのは、正常な生理的な反射と病気がもとで出る病的反射の2面性をもっていることになります。病的反射で出る咳の原因を第2話でお話します。
 咳が一度出ますと約2キロカロリーのエネルギーを消費します。10回咳をしますと10分程度の散歩に要するエネルギーを消費します。咳の音も70~90デシベルと目覚まし時計程度です。ついつい、咳で周囲に迷惑をかけるのではないかと気疲れもしますね。

​​なぜ痰がでるのでしょうか?

 痰は、気管や気管支の中で過剰に作られた分泌物が口から体外に排出されたものです。もともと、気道腔内は飽和水蒸気でみたされ、湿度100%です。空気と接する気道の内面には多くの分泌細胞が分布しており、常に水分や粘液成分の分泌物が作られていて、それが、気道を覆っている細胞表面の繊毛によりのどまで上がり、無意識のうちに飲み込まれているわけです。ですから、ある程度以上の分泌液量になると痰として認識されるわけです。
 ある程度以上の分泌物は外からの病原細菌、ウイルス、埃や粉塵吸入に反応したり、気管支の炎症や肺炎などにより発生します。ですから、痰も肺を守るという役割を果たしますので、痰が一度も出ないという人はいませんし。痰がからみ、自分で外に出せないようになりますと、窒息してしまい、命尽きることになります。​

第2話

咳と痰はどんな病気ででるのでしょうか?

 私が医師になりたての頃は咳と透明ではない膿性痰(後で説明します)が慢性的に出るびまん性汎細気管支炎の方が多く、治療法が無く、若くして亡くなる方もいました。今は、マクロライドという抗菌剤を少量服薬し続けることで不幸な転帰を取る方はほとんど見なくなりました。
 現在、圧倒的に多いのが、急性上気道炎、いわゆる風邪症候群です。急性上気道炎のほとんどは気道ウイルス感染が原因ですので、咳止めで対応します。比較的対処しやすい咳ですね。
 しかし、たかが咳と侮ってはいけない咳もあります。咳優位喘息や咳喘息の咳は長引いて生活に支障をもたらします。検査を受けて、ステロイド吸入療法などを開始します。
 アレルギー性鼻炎でも咳がでますが、鼻水、鼻つまりを伴います。
 近年増えている間質性肺炎でも痰を伴わない咳(空咳といいます)が出ます。空気中に含まれる異物などに過剰反応(咳感受性が高まっているといいます)して生じる咳ですので、間質性肺炎の治療を優先します。が、効果も弱く、いわゆる咳止め薬でもなかなか、咳を止めることができず、厄介です。
 2025年に入り流行している百日咳は頑固な咳が出ます。「ケーンケーン」といった喉の奥から出る咳です。風邪症候群の咳と比べ、はるかに重く回数の多い咳です。最近、穴水病院にも咳が止まらないといってこられた患者さんがいました。近くの医療機関で咳止めをもらい、さらに喘息吸入剤も処方されたが、全く改善しないとのことでした。マクロライド抗菌剤などでの初期療法が肝腎ですが、100日ほどまで咳が長引くとして、昔から知られていました。
 様々な咳を止める治療を行っても、咳が長引いて持続する難治性咳嗽も最近は咳過敏性症候群として関心を集めています。感染症やアレルギー素因がなく、低レベルの温度変化(乾燥など)・機械的/化学的刺激(会話や香水のにおいなど)などが原因といわれていますが、まだ詳細は不明の点が多い咳です。
 希に息を吸ったとき(吸気時)に本来は開いて吸気を肺の深くまで誘導する声帯が閉じる病気があります。急に起こり急に止まります。喘鳴や呼吸困難感も伴いますが、喘息治療剤では効果がありません。声帯機能障害といいますが、まだ、病態はよくわかっていません。耳鼻科での喉頭鏡検査で吸気時に声門が閉じていることを確認します。
 結核感染症の中でも比較的希な喉頭結核は頑固な咳が持続します。
 また、比較的太い気管・気管支原発の肺がんでも頑固な乾いた咳が続き、やがて痰も伴います。さらに、食道がんでも咳がでます。気管にまで浸潤すれば血痰も加わります。
 まれな、肺胞蛋白症では咳と白色調の痰が出ます。
 数年来、流行している新型コロナ感染症の治療を受けた方に、なかなか咳が止まらない人もいます。たいていは、易疲労感や無気力感、集中力低下、頭痛、味覚嗅覚障害、動悸など多彩な症状も伴い感染前の日常生活に復帰できない場合があります。ポストコロナ症候群といいます。
 一部の降圧薬服用でも空咳が出る場合がありますので、降圧薬を開始してまもなく咳が出れば主治医と相談しましょう。
 痰だけがでるという病気はまずありません。ほとんど、痰を肺から外に出そうとして咳も伴います。黄色味がかった痰(粘っこいです)がでるのは下気道の炎症があるためですので、病原性細菌が原因の気管支炎や肺炎、肺結核などを強く疑います。これを膿性(膿の混じった)痰といいます。希に、膿性痰ににおいがする時があります。病原細菌でも嫌気性菌による炎症を意味します。膿性痰が出れば、その検体を用いて病原細菌の顕微鏡検査と細菌培養を行います。原因菌が判明すれば、効果があると思われる抗菌剤を開始します。
 希に、喘息発作時に好酸球という白血球の一種をたくさん含む痰(膿性痰と類似)がでますが、非感染性です。また、副鼻腔気管支症候群(副鼻腔炎と気管支拡張症を伴います)の場合は慢性的に咳と痰(感染すると膿性痰になります)に悩まされますし、非結核性抗酸菌症の方も同じように咳と痰が慢性的に出ます。
 アレルギー性鼻炎ではない感染性の慢性副鼻腔炎の病態の一つに後鼻漏がありますが、副鼻腔や鼻咽腔でつくられた分泌物が鼻の穴から出ず、鼻の奥からのどに流れ落ちる状態となって、のどを刺激し、咳と痰が出ます。
 ウイルスや病原細菌感染によるものは局所の炎症が原因ですが、炎症の無い場合の痰もあります。うっ血性心不全で肺がむくみ、血液成分の血漿部分が肺胞腔に漏れ出て、痰となって出ます。肺水腫ですね。
 非感染性の胃食道逆流症(逆流性食道炎)は夜間仰向けになると咳が出やすいです。高齢者に多い病気です。
 透明か白い痰が出る場合は、埃や粉塵吸入によって気道分泌の亢進などででやすいですが、初期の(ウイルス性)気管支炎や喘息でもでる場合があります。色のついた痰と比較すれば、そんなに粘調ではありません。
 ストレスによって咳が出る場合を心因性咳嗽といいますが、咳の原因になる器質的な病気を否定しての診断です。未知の病気が見逃されているかもしれないので実際は、心因性と診断するのは難しいですね。​

第3話

咳と痰を抑える治療法はありますか?

 原因が多彩ですが、判明すればその原因に対する治療を行います。例えば、喘息による咳には吸入ステロイド剤、病原細菌による気管支炎や肺炎には抗菌剤、結核感染症による咳であれば抗結核剤、肺がんや食道がんによる咳であれば外科手術や放射線療法、抗がん剤治療を行います。逆流性食道炎による咳であればプロトンポンプ阻害剤を服用します。
 ウイルス感染による風邪症候群であれば、なかなか原因ウイルスを特定しても、インフルエンザウイルスと新型コロナウイルス感染症を除いて選択的に効果のある抗ウイルス薬はまだありません。仕事を控えて、安静を保ちご自身の免疫抵抗力による回復を待つのが原則です。
 が、忙しい現代では、いわゆる咳止め薬が求められますね。これを鎮咳薬といいます。麻薬性(リン酸コデイン、ジヒドロコデインなど)と非麻薬性(チぺピジン、デキストロメトルファン、ノスカピンなど)の咳中枢を抑制する鎮咳剤と気管支拡張薬、痰を切る薬(去痰薬)、ステロイド吸入薬、漢方薬(麦門冬湯、御虎湯など)など末梢性鎮咳薬があります。
 最近、感染症でもなくアレルギーが元でもない咳過敏性症候群など難治性咳嗽に効果がある薬剤が使用できるようになりました。リフヌアという薬剤です。
 気を付けていただきたいのは、咳止め薬にも副作用があるということです。たとえばコデイン系薬は吐き気や腹痛、かゆみなどが出る場合があり、メジコンは眠気、ふらつきなどの副作用があります。また、強力な咳止め薬は痰の排出を抑えてしまいますので、痰症状もあれば注意が必要です。その他の咳止め薬にも様々な副作用が報告されていますので、安易に長く咳止め薬使用は好ましくありません。
 まず、末梢性鎮咳薬を使用して、効果が不十分であれば非麻薬性の中枢性鎮咳剤を試み、それでも不十分な場合は麻薬性の中枢性鎮咳薬を用います。麻薬性中枢性鎮咳薬の副作用と依存性がでないように最初からではなく最後に使用するわけです。
 一方、痰を抑える薬というものはありません。痰の薬は痰の性状を変化させて(粘りを抑えたり、気道の繊毛運動を活性化したり、肺サーファクタントの分泌を促進したりなどの作用です)痰を出しやすくするという意味で「去痰薬」といいます。ムコダイン、ムコソルバン、ビソルボン、清肺湯などです。やはり、吐き気や食欲減退などの副作用も報告されていますので長期服薬は望ましくありません。
 薬物などを用いて痰をだそうとしてもなかなかでない状態もあります。気管支拡張症や副鼻腔気管支症候群そして非結核性抗酸菌症のヒトに多いです。痰が詰まっている気管支を確認して、その部位を地球側に一定時間向ける、つまり、重力を応用した排痰ドレナージ法を行います。毎日、起床後に行います。​

咳と痰の予防法はありますか?

 咳と痰の原因になりえる外的因子の上気道・下気道・肺への侵入を防ぐために外出時はマスクをして、口腔内の乾燥を防ぎましょう。口腔内が乾燥すると口腔粘膜のバリアー機能が損なわれます。のど飴やガムなどもいいです。また、鼻呼吸は鼻毛で粉塵などをブロックしますので、鼻呼吸を意識して口開け呼吸はできるだけ避けましょう。
 室内環境も乾燥しすぎや、逆に、湿気でカビなどが繁殖しないように空気清浄機などでの室内環境保全が大切です。
 歯磨きやうがいなどを忘れず口腔ケアをこまめにおこなうのも大切です。
 タバコは禁煙しましょう。やはり、タバコ喫煙によって気道壁の内側を覆っている細胞の繊毛機能を破壊してしまい、防御機能が低下します。
 粉塵(埃)を吸う職業、道路作業者や建物解体業者、(不)燃物集積業者などは粉塵を含む汚れた空気に晒されますので、咳がでないよう防塵マスクの装着を徹底しましょう。​

​終わり