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COPDの話をしましょう

ページID:0106910 更新日:2025年10月7日更新 印刷ページ表示

COPDの話をしましょう(3話完結)

第1話

COPDとはどんな病気ですか?

 2024年1月1日発生の能登半島地震の際に、在宅酸素療法を受けているCOPDの人たちが、電源途絶で自宅に設置してある酸素濃縮器が使用できず、酸素難民となり、大変困った状態に陥りました。COPDが進行しますと慢性呼吸不全という低酸素状態となり、酸素吸入が必要となります。
 COPDとは肺の生活習慣病として平成25年の第2次健康日本21で初めて取り上げられました。我が国やほとんどの国では主に長期のタバコ喫煙(長期の受動喫煙も)が原因とされています。が、全世界的には大気汚染物質や粉塵を吸入する職業や煤煙吸入なども原因として報告されています。たばこ喫煙による刺激物質の吸引が肺の炎症をもたらし続けて、やがて、肺胞(横隔膜が収縮して吸いこんだ空気は気管・気管支という気道を通過して毛細血管網でできている肺の薄い膜の袋に到達します。この袋を肺胞といいます。健康成人には約3から5億個あります)が破壊され、さらに、気道粘膜の損傷も招きます。細い気道の慢性炎症は壁を脆くしますし、炎症性物質を含む粘液も多く作られます。そうすると、本来、横隔膜の収縮で吸った息(吸気といいます)が鼻や口から外に吐き出される(これを呼気といいます)際に、COPDではもろい壁を外側から圧迫して細い気道が潰れてて呼気(呼気時には膨らんでいる肺胞を外側から陽圧をかけて中の空気を出しやすくします)が出きらない(もちろん、細い気道の中の粘液も邪魔をします)ことになります。   COPDは日本語で慢性閉塞性肺疾患と呼びますのは、細気管支が閉塞するという意味です。
 タバコ喫煙者の約10から20%がこのCOPDになるといわれていますので、タバコ喫煙感受性の遺伝子がある人がCOPDになるのだろうと推測されています。
 そして、日本人には希な、アルファー1プロテアーゼ抑制酵素タンパク質欠損者のCOPDが欧米では報告されています。50歳未満でCOPDを発病する場合、弱年性COPDといいますが、余程の重喫煙者か、このアルファ―1プロテアーゼ抑制酵素タンパク質欠損者です。
 もちろん、非喫煙者のアルファ―1プロテアーゼ抑制酵素タンパク質欠損者でもCOPDの発病をみますが、より年齢を重ねてから発病します。COPD全体は60歳から70歳代と比較的高齢者の病気です。アルファ―1プロテアーゼ抑制酵素タンパク質は肝臓でつくられ、全身を巡るたんぱく質分解抑制酵素です。例えば、肺組織が炎症を起こしますと蛋白分解酵素が働いて組織修復のおぜん立てをします。が、微妙なタイミングで蛋白分解酵素の働きを抑制しないとブレーキがかからず、絶え間なく、肺組織を破壊し続けますね。
 また、タバコ喫煙による活性酸素が肺で悪さをしていることも知られており、活性酸素消去能の弱い人もCOPDになりやすいのであろうといわれております。
 1日20本のタバコ喫煙を開始して20年以上過ぎるとCOPDが出来上がるといわれています。もちろん、タバコ2箱以上の重喫煙者ではそれより早くCOPDが成立しているでしょう。タバコの本数が問題か、あるいは喫煙期間の長さが問題かという意見もありますが、
1日のタバコ箱数(20本を1箱と換算)xタバコ喫煙年数、これをパックイアーズスモークドといって、20を超えるとCOPDになりやすいといわれています。
 そして、タバコ喫煙開始年齢も20歳未満からですと、よりCOPDになりやすいといわれています。ヒトの肺は20歳ごろまで成長し続けて、その後ゆっくりと肺の機能は低下していきますので、細胞代謝の活発な時期にタバコ煙に曝されますので肺組織が強く悪い影響を受けるのでしょう。
 近年になって低体重の未熟児で生まれると成長しても低肺機能となり、COPDが発病するとの報告も出てきました。成長期のタバコ煙暴露や肺炎の罹患などは避けなければなりません。
 我が国のCOPDの方は肺胞が壊れる肺気腫型がほとんどとお話しましたが、気管支や細気管支の慢性炎症で喀痰がよく出る慢性気管支炎型も少数認められますし、肺気腫型に間質性肺炎を伴った型や肺気腫型に喘息も伴った亜型なども知られています。
 最近判明したことはCOPDに見られる持続する肺の炎症は全身に影響を及ぼすということです。つまり、COPDは全身疾患ということです。事実、COPDの方は動脈硬化、狭心症、心房細動、心不全などの循環器疾患や栄養障害、骨粗しょう症などを高率に併存症として持っている人が多いです。さらに、肺がんも発症しやすいです。​

​​COPDとはどんな症状がでますか?

 初期は全く症状がありません。ある程度進行して、ようやく、坂道や階段を登るときに息切れを感じるようになります。もっと、進行しますと、食事時の息切れや顔を洗おうとうつむいたときなどに息切れを感じます。さらに、進むと、夜間も息切れを覚え睡眠が妨げられます。もちろん、途中から咳が出始めます。痰も少し出ます。
 肺の容量(大きさ)や働きを肺機能検査という方法で測定できますが、息切れは1秒間に吐き切る空気(1秒量といいます)が約1L未満となると感じるようになるといわれています。1秒量と息切れはある程度相関すると知られています。平均身長と平均体重の健康成人では1秒量はだいたい2L以上ですので、よほど、1秒量が減らないと息切れが起こらないですね。
 なお、肺の病気が無くても加齢自体で1秒量はゆっくりと低下しますが、肺機能検査も血液検査と同様80歳を超えますと基準値というものがはっきりしなくなります。正常だと思われる健康老人の集団での大規模検査ができないですので、どこから異常値でどこまでが正常値かの線引きができないのです。最も正常とどう判断するかも問題ですね。​

第2話

COPDの診断方法は?

 第1話でお話しましたように、初期には症状がまずありません。我が国ではタバコ喫煙者の方がCOPDとなりやすいですので、中高年のタバコ喫煙者の方が他の病気で通院中に、あるいは、人間ドックや検診で胸部CT検査や肺機能検査を受けて異常があると呼吸器内科に紹介されてCOPDと診断される場合がしばしばです。
 胸部CTは断層撮影の1種ですが、幅1-2ミリの断層写真(これを高分解能CTといいます)を撮影しますと、肺の上側を中心に下側に及ぶ、小さな黒い穴が多発しています(空気は密度が肺組織と比較して各段に小さいので黒く映ります、肺組織は鼠色です)、つまり、肺組織が壊れているサインを認めます。この小さい黒い穴はやがて融合して大きくなります。
 極く一部のCOPDの方は痰がよく出ます。胸部CT検査をしますと、小さな黒い穴はそんなに目立たず、むしろ気管支の壁が厚く不整になり、内部に粘液が貯留しているタイプです。幸い日本人COPDには少ない慢性気管支炎型のCOPDです。
 胸部CTはCOPDの早期診断に役立ちます。上肺野に小さな黒い穴が多発して、下肺野には線維形成を認めるCOPDも発見できます。上肺野が過膨張して、下肺野が縮じまる形です。
 つまり、COPDの方は肺機能検査をしますと、肺は過膨張していますので肺活量(息を精一杯吸い込める空気の量を示します、肺の大きさを意味しますが、普段私たちの1回の吸い込む空気の量は400ml程度です。)はむしろ増えて、吸った空気が途中で気道がつぶれてスムーズに吐き出せないないので1秒量(思いっきり空気を吸い込んでそのあと1秒間でできるだけ早く吸った空気を吐き出した量を示します)は低下します。
 一応、1秒率(実際測定した努力肺活量を分母にして、実際にこれ以上吸い込めないほど思い切り吸い込んだ空気量から一秒間で最大限吐き出せる空気量(1秒量)を分子にして割った数値です。%で表します。努力肺活量はこれ以上吸いこめないほど思い切り吸い込んだ空気を、できるだけ短時間で吐き出せる空気量(FVC)をいいます。ややこしいですね。)が70%未満でしたら、閉塞性機能障害があると判定します。胸部CT写真の情報と肺機能検査値をもとに、COPDと判定します。なお、1秒率の数字でCOPDの重症度を判定します。もっとも、1秒量や1秒率は気管支拡張剤吸入によって喘息ではかなり改善し、COPDではほとんど改善しないというのも鑑別診断に役立ちます。
 肺機能は20歳を過ぎると年齢とともに肺に病気が無くても低下します。そのため、高齢者ではCOPDではないのに1秒率が70%未満の方も見られます、逆に、若年者ではCOPDであるのに1秒率が70%以上の方もいます。肺気腫+間質性肺炎型のCOPDの方は肺が過膨張する肺気腫と肺が縮む間質性肺炎が混在しますので、肺活量の増加も顕著ではなく、1秒量の低下も顕著ではありません。 ともかく、肺機能検査だけでCOPDとは即断できません。最も、精密肺機能検査の拡散能の低下と残気量の増加を認めればCOPDとして問題はありません。精密肺機能検査は特殊な検査機器が必要ですのでどこの病院でも調べられる検査ではありませんので、これ以上の説明は割愛します。
 COPDの方は息が苦しいので、より多くの空気を吸おうと努力しますが、1Lの酸素を取り込むのに40L-50Lの換気が必要とされます(ちなみに、健康人は20L-30LとCOPDの方の半分くらいで済みます)。絶えず、呼吸努力をしていますから、呼吸の筋肉も疲労してしまいます。
 次いで、目で(視診といいます)で首の胸鎖乳突筋が異常に肥大(無意識のうちに息を吸おうと努力して呼吸補助筋の胸鎖乳突筋を収縮させる動作を続けますので、肥大します。)しているかを確認し、男性では甲状軟骨(喉仏です)と鎖骨の間が狭くなっていないかを観察します(呼吸努力をしていますので肺が過膨張し胸郭も大きくなりますので、境界が全体に上に上がります)。指がばち指であるかも診ます(COPDの方には発見頻度が低いですが、COPDに肺がんを合併していると発見頻度が上がります)。肺の聴診では背中で息を吸うときに肺胞呼吸音が聞こえるか(肺胞が壊れていますので肺胞呼吸音は聞こえません)を確認します。胸郭が過膨張しますので、聴診器で聴取する心音は弱く聞こえます、さらに、肺胞が破壊されていますので、毛細血管網も破壊されていて、肺動脈の血管抵抗が上がり肺高血圧症ともなりますので、右心室から肺動脈に血液を送り出す際に開く三尖弁が閉鎖不全となり収縮期雑音を聴取します。これ以上肺高血圧症などの詳細な説明は省きます。​

第3話

COPDの治療法は?

 昔は禁煙以外に有効な治療法はありませんでした。タバコ禁煙は今も基本的な治療法ですが、ここ、20年間に、COPDの病態が判ってきて、治療法、特に吸入療法に大きな進歩がみられています。吸入療法はCOPD治療の世界の潮流となっています。
 年々低下していた1秒量・1秒率の低下度を著しく防ぎ、肺の荒廃を遅らせる効果が出てきました。
 抗コリン作用(気管支収縮抑制効果)を持つ吸入剤が基本で、それに、ベータ―刺激剤(気管支拡張効果)とステロイド剤(抗炎症効果)を加えた3剤吸入薬も登場しました。抗コリン作用、ベータ―刺激作用やステロイドの抗炎症効果などの薬効が微妙に違う複数の薬剤が応用されています。軽症であれば抗コリン剤で十分です。中等度になりますと抗コリン剤+ベータ―刺激剤の2種類吸入薬で十分です。重症になりますと抗コリン剤+ベータ―刺激剤+ステロイド剤の3種類吸入薬を勧めます。肺気腫型+間質性肺炎型で間質性肺炎が進行するタイプは抗線維化剤も併用しますし、肺気腫型+喘息型では最初から抗コリン剤+ベータ―刺激剤+ステロイド剤の3種類吸入薬を勧めます。
 ただし、微妙に異なる薬効を含む吸入製剤が複数あり、それぞれ、吸入方法や吸入回数が微妙に異なりますので、患者さんの理解力や吸入力、手の震えなどを見定めて、吸入薬を選び、使用方法を説明していきます。医師だけではこの説明と実技指導は忙しい外来の限られた時間では不十分で、院外調剤薬局の薬剤師の方にも指導確認をお願いしています。吸入手技が正しくないと効果も発揮されませんね。
 薬物療法と同じ程度に重要な治療法は呼吸リハビリテーションです。COPDの方は、沢山の空気を吸って息苦しさから逃れようとしますので、吸気動作に強く関心がいきますね。しかし、肺の中に既に残っている空気を完全に吐き出さない限り、肺に空気は十分入りません(完全に空気を吐ききった状態でも肺はぺしゃんこになっているわけではありません。一定の空気は残存しています。)。肺も胸郭も拡大してより多くの空気を吸えるよう対応しょうとしますが、それも限界があり、胸郭が膨れて非常に硬くカチカチになり柔軟性が失われて肺を縮じませて空気を出す呼気運動の妨げになります。息を吐くときに作用する横隔膜(最大の呼吸筋です)の動きもおかしくなり、呼吸補助筋(内肋間筋と腹筋です)の助けで縮むはずの胸郭も反応してくれません。呼吸リハビリテーションでこの胸郭を柔らかくして、呼吸動作を元の形に戻します。
 また、第1話でお話しましたが、息を吐くときに肺内でつぶれる気管支をつぶれないように、口をすぼめて抵抗をつけ、気管支内を陽圧にして息を吐き続けることができる口すぼめ呼吸も習得します。息切れが出た場合の対処法も学びます。健康時の呼吸の仕方を覚えることは、横隔膜などの呼吸筋を疲労させないことにもつながります。残念なことに、呼吸リハビリテーションを受けられる病院施設はまだまだ限られていますので、ホームページなどの情報をみてください。ちなみに、公立穴水総合病院では受けられます。
 COPDの方は呼吸努力でエネルギーを余分に使います。何もしない安静時でも健康な人の1.5倍のエネルギーを消費しているという報告もあります。その上、肺・胸郭の過膨張で胃が圧迫されたり、食事中(食事中は息が止まっています)も息切れが激しく食事量が減ってしまうという理由も加わり、やせ型のCOPDの方が多いです。
 やせ状態は体力がないということにつながりますので、栄養バランスを考えた栄養療法も重要となります。エネルギー消費量が多いですので健康人以上に栄養を取る必要がありますね。栄養士さんの協力が必要です。栄養補助製剤もありますので活用しましょう。息がつらいのでほとんど動かず、やせ状態が進行すれば、フレイルとサルコペニアに陥り、生活の質が著しく低下して、寝たきりとなります。運動は肺機能を回復するわけではありませんが、筋肉運動を円滑にして、COPDの生活の質を改善し、生命予後も延長するという報告も出てきました。
 これまで、骨格筋は身体を動かすだけの組織と思われてきましたが、筋肉の研究が進み、筋肉も身体に働きかけるホルモン用物質を全身に送るということが明らかになってきました。運動によって筋肉から生産されるホルモン用物質は筋肉の霜降り化を抑制して筋肉運動を正常に維持しますし、加齢を促進するホルモン様物質の筋肉での生産を抑制します。運動療法がフレイルやサルコペニアを防ぐ効果がありますので、COPDの方もじっとしている生活から身体を動かす生活に帰ることが望ましいです。
 COPDが進行して、息切れを強く感じるようになりますと、在宅酸素療法(HOT)を開始します。息切れを和らげて活動範囲を狭めないことを目的としています。が、酸素療法をするほど病気が悪くなっているのだろうと解釈して、「もう駄目だ」と生きる意欲を失う人もいます。また、変な機械を持って歩いているのでじろじろ周りから見られて外出も控える方もいます。「HOTは大切な治療機器である」という認識が社会に行き渡っていない現状は残念なことです。​

​​COPDにならないためには?

 まず、最初から、タバコ喫煙しないことです。我が国では、肺にやさしい加熱タバコも販売されていますが、電子タバコと同様に、加熱タバコには数千の刺激物質が含まれており、肺障害も報告されつつあります。ともかく、肺への刺激物質を吸い込まないことが肝要です。職業上、粉塵を吸わざるを得ない粉塵作業従事者は防塵マスク対策を徹底することです。
 タバコ喫煙によって肺内に活性酸素が産生されて、周辺の組織に障害をもたらすことも明らかになってきています。活性酸素を抑える、緑黄色野菜や葡萄に含まれるポリフェノールの1種のレスベラトロールやビタミンE、ビタミンC、カロテンなどを摂取するとCOPDの発病を抑えられるという報告もあります。レスベラトロールは抗酸化作用の他に全身の炎症を起こす物質の産生を抑制するという作用もあります。
 COPDの肺は細菌・ウイルス感染に対する防御能が落ちていることが報告されています。
 タバコ煙などの刺激物で気道の粘液線毛系(NTMの話の中で説明しました)も障害されて、肺の中の異物(老廃物、汚染物質など)をすみやかに肺の外に押し出す働きが著しく低下します。つまり、肺の中にいつまでも異物が残ることになります。いつまでたっても、痰が切れないという症状となって現れます。病原細菌やウイルスが肺に侵入して増殖しやすい状態になります。いったん肺炎になりますと、肺炎が長引き命取りにもなりますので、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザウイルスワクチン接種はこまめに受けましょう。ちなみに、肺の中の異物が粘液線毛系で肺の中を押し上げられて、太い気管支・器官まで達しますと、咳反射が働き一気に外に異物(痰といいます)として吐き出されます。
 最近、流行しています新型コロナウイルス感染症はCOPD肺の細胞表面に沢山存在するACE受容体に好んでくっつき細胞に侵入して、ウイルス数を増大させます。COPDの新型コロナウイルス感染者は重症化しやすいのはこの理由ですので、できれば、新型コロナウイルスワクチン接種も望ましいですね。​

​終わり

自宅庭に咲くネジバナ​(自宅庭に咲くネジバナ 2022年㋅)