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肺炎の話をしましょう

ページID:0106811 更新日:2025年9月16日更新 印刷ページ表示

肺炎の話をしましょう(3話完結)

第1話

肺炎とはどんな病気ですか?

 2024年1月1日能登半島地震が発生して多くの家屋が倒壊しました。道路の損壊も激しく街中が埃まみれになりました。そんな中で倒壊家屋の後片付けや道路などの修復作業が進んでいましたが、肺炎患者さんが増えました。そして、あまり経験しないレジオネラ肺炎も発生しました。
 肺炎の原因のほとんどは病原微生物を肺に吸い込むことによって成立します。が、通常の健康成人では簡単に肺炎にはなりません。汚染された空気の吸い込みによる気道粘膜損傷や震災での心労による免疫能低下と体力低下との相乗作用で震災後、肺炎が多発したのでしょう。
 肺炎を定義しますと、下気道・肺の炎症です。多くは、細菌という病原微生物が原因(肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、モラキセラ菌、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジア、レジオネラ菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌など)です。少数はウイルス、真菌などが原因です。原因細菌だけでも多種におよびますね。

​​肺炎の症状は?

 典型的な症状とそうではない軽い症状と2通りあります。最初は上気道炎症(上気道とは鼻腔、耳腔、口腔を示します、声帯より上の器官です)をもたらす風邪症状(喉の痛みと微熱、鼻水、咳、白い痰など)とよく似ていますが、そのうち、高熱がでて、食欲もなくなるような症状の変化が加われば、また、風邪症状が1週間も持続すれば、もしかして肺炎かと疑う必要があります。
 近年、よく流行していますのは肺炎マイコプラズマによる肺炎です。これは、若い人にしばしば肺炎を起こします。痰を伴わない頑固な咳が持続します。ヒトが密集しているところで集団感染する場合があります。昔、期末テストの勉強で集まっていた学生さんが集団で外来受診されたことがありました。本来は、そんなに強くない病原微生物です。
 それでは、高齢者はといいますと、肺炎は高齢者の敵、あるいは高齢者の友ともいわれていますように、高齢者にとっては何度も感染します友達であり、時には命を落とす敵でもあります。高齢者になりますと、肺炎にり患していても高熱が出なくて、なんとなくだるい、食欲がないなどの特徴のない症状が持続していて、しばしば、診断と治療が遅れる場合があります。ヒトの死亡率は100%ですが、肺炎で亡くなる方の95%以上が65歳以上の高齢者です。わが国では死亡原因の第4位に位置しています。超高齢者の85歳以上の場合は第3位から第2位と上がります。​

第2話

肺炎になりやすい人は?

 空気は気管を通して出入りしていますから、出入り口は一つですね。これは出入り口が別々に在る飲み物、食べ物への対処とは全く異なり、気管・肺に貯留した粘液や要らないものは気管にある繊毛(口側に向かってエスカレーターの役をしています)の働きでより太い器官まで運ばれ、そこで咳反射が生じて外界へ吐き出されます。この生体防御機構が年齢とともに低下しますし、 神経難病の方の咳反射も低下します。タバコ喫煙者は繊毛機能が著しく衰えますので、気管・肺内の清潔性が維持しがたくなって、侵入した病原微生物を排除できにくくなります。
 つまり、第1話でも取り上げましたが、肺炎になりやすい人の背景は、免疫機能の衰えた高齢者、神経難病や脳血管障害、認知症で活動性の落ちたひと、寝たきりのため咳反射力の低下した人、抗がん剤治療や免疫抑制剤使用者、心臓病(うっ血性心不全など)や慢性呼吸器病(COPD、間質性肺炎など)、慢性腎臓病の方などです。
 また、糖尿病の方は病原微生物を貪食する沿岸防衛隊とでもいうべき白血球やマクロファージの働きが落ちてしまいますし、病原微生物に対する抗体産生能力も落ちます。細胞性免疫能も落ちると報告されています。
 日和見感染という言葉もあります。「日和見」をどう呼べばよいのかという人もいるでしょう。かって学園紛争の激しい時に、この言葉は盛んに聞くことができました。主義に賛同しても行動しない学生さんをこの言葉を用いて非難したわけです。「ひよりみ」と読みます。日和見の本来の意味は「有利な側につこうと、形勢をうかがう」ということですので、 健康体では問題にもならない病原体が健康体ではないAIDS、進行がん、重度糖尿病、白血病などの患者さんに好機とみて肺に侵入し増殖する感染です。カリニ肺炎、サイトメガロウイルス(CMV)肺炎、アスペルギールス肺炎などです。
 この話題をまとめている6月初旬に、野球界の大スターの長嶋茂雄氏が肺炎で亡くなられたという悲報に接しました。脳血管障害から見事に立ち直った方ですから、誤嚥性肺炎ではない肺炎であろうと思い込んでいます。​

肺炎の診断方法は?

 肺炎初期の症状は風邪とそんなに変わりませんが、38℃以上の高熱が出たり、黄色い痰がでたり、息切れも激しくなるようでしたら、肺炎症状であると強く疑います。もっとも微熱程度で食欲も落ちず、活動的な患者さんもいます。症状では診断できないのです。ある程度進行しますと聴診器でコースクラックルという普段聞かれない湿った吸気音を聴取する場合があります。この音は肺水腫でも聴取します。
 第1話でもお話しましたように、肺炎を起こす病原細菌は多種類で、しかも、個々の病原細菌による肺炎特有の症状は残念ながらないのです。では、どうするかですが、患者さんの健康状態(元気か?病気で免疫抵抗力を落とす薬剤などで加療中か?)、生活場所(自宅か?施設入所か?入院中か?)、飼育歴(オウムやインコ、鳩などを飼育?)、患者さんの生活近辺で流行している呼吸器感染症は何か?(インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなど)、浴場好きか(水系を好むレジオネラ菌)などを詳細にお聞きして、ある程度原因微生物を絞り込むことができます。基本は患者さんの喀痰を培養して原因微生物を確認する方法です。が、すべての患者さんから喀痰を採取することは不可能ですね。まして、喀痰培養結果を得るには最低48時間必要ですので、抗菌剤使用をその間待つわけにはいきません。これを補う方法に血液検体を用いて病原微生物の抗原や抗体を調べる方法もあります。また、詳しくは述べませんが胸部画像、特に胸部CT画像検査で、ある程度病原微生物による肺炎パターンの特徴があります。
 以上を総合して、使用すべき抗菌剤を選びます。​

第3話

肺炎の治療は?

 抗菌剤治療は、重症肺炎を除いて単剤治療が原則です。元気な人なのか、あるいは施設入居者か、病院に入院している人なのかによって、肺炎を起こす病原微生物がだいたい決まっていますので、たぶんそうであろう病原微生物と類似の微生物に効果がある抗菌剤をまず使用します。まず、1週間は抗菌剤治療が必要ですので、原則、入院加療ですが、軽症肺炎であれば、外来で、半減期の長い(つまり、病原微生物にたいする作用効果時間が長い)抗菌剤点滴療法を行います。忙しくて、毎日来れないという人もいますので、強力な飲む抗菌剤も処方します。当然、仕事は控えて、無理をしないようにとお話しますがーーー。
 不幸にして、治療がうまくいかない場合はどう考えるかですが、そもそも診断を間違えていた、使用した治療薬に耐性を示す菌が原因であった、抗菌薬使用量が少なかったなどの医療者側の問題と宿主の免疫状態が悪かった、栄養不良であった(低アルブミン血症であった、極度の貧血であったなどの問題)が錯そうします。肺炎の抗菌剤治療はあくまで適切に使用して耐性菌を作らないというのが原則ですから、こうなると医療者の顔から笑顔が消えます。
 肺炎にり患して重症化しやすい患者さんの特徴も知られています。 それは、70歳以上の男性、75歳以上の女性(女性のほうが肺炎重症化になりうる年齢が5歳遅いです)、意識障害をきたしている状態、脱水状態、低血圧となっている状態、低酸素血症状態などです。これらの項目のうち該当するものを合わせて点数化する方法も考案されています。
 治療時期が遅れますと、肺炎を起こしている肺胞領域の構造が壊れて、肺化膿症(肺組織が溶けてしまう状態です)や胸膜腔まで炎症が及び膿胸(胸膜腔に膿が溜まります)となります。そうなると、抗菌剤治療期間が長引き、外科的排膿手術も必要になる場合があります。治った後も、肺に傷跡が残り、肺機能も低下します。
 さらに、肺の損傷部位から血管内に病原細菌が侵入して血液に乗り全身を巡る敗血症という、非常に重症の感染症になる場合がありますし、肺の感染病巣が急速に広がり、急性呼吸促拍症候群という状態に陥る時があります。後者では人工呼吸管理が必要となりますが、両者とも多臓器不全になり、不幸な転帰をたどる場合があります。
 細菌性肺炎の多くは細胞壁を持っており、細胞壁の合成を阻害するペニシリン・セフェム系統の薬が効きます。が、肺炎マイコプラズマや肺炎クラミジア、レジオネラは細胞壁をもたない菌ですのでペニシリン・セフェム系は無効で、ニューキノロンやマクロライド製剤が効きます。
 インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスによるウイルス性肺炎の治療剤は抗ウイルス薬を用います。
 治療の期間ですが、抗菌剤を長く使用していますと耐性菌が顕れて、抗菌剤の効果が得られない状態になりますので、せいぜい、2週間程度の使用にとどめます。それでも、効果がない時は他の抗菌剤に変えて治療を継続します。あるいは、肺炎という診断自体が誤っていた(例えば、悪性腫瘍による発熱症状もあります)のではないかと検査をやり直します。
 抗菌剤の効果があったとの感触は、動けない患者さんがトイレまで動けるようになったり、食欲が出てきたりなど、患者さんの変化の観察で把握します。血液の炎症反応は低下していきますが、すぐ、陰性になるわけではありません。当然、胸部X線写真上の肺炎の影は、もっと遅れて消失します。

​​肺炎の予防は?

 誤嚥性肺炎を除いて肺炎の多くは空気を介して病原微生物が体内に侵入しますので、昔から言われている、うがい・手洗い・マスクは効果があります。ただし、感染した人と接触して感染も生じる肺炎マイコプラズマによる肺炎もありますが。
 室内の換気、人混みを避けることも大切です。寒冷時にはなお必要ですね。過労やストレスを避けて、高齢者であれば気道感染をしている幼い孫の孫守(家族内感染といいます。孫は感染して免疫抵抗力を獲得していきますが、気道感染している孫を身近にみている祖父母や父母は繰り返す感染で徐々に体力・免疫力が弱っていきます)を控えるようにしましょう。
 毎日適度の運動をすると免疫が刺激されて風邪をひきにくくなるという報告もあります。毎日、歩くことですね。
 そして、肺炎球菌ワクチン、インフルエンザウイルスワクチン、新型コロナウイルスワクチンなどの予防接種を受けていただきたいです。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス感染によってウイルス性肺炎に進行した場合にしばしば病原細菌による肺炎も合併して命取りになることがありますね。ウイルス感染の際の重症化を避ける意味でもワクチン接種は重要です。
 肺炎球菌ワクチンは、肺炎球菌による肺炎予防や軽症化を目的としますが、病原性細菌による肺炎の約25%が肺炎球菌性肺炎です。四分の1の効果は算数の上では低いので「なんだ」と思われるかもしれませんが、医療の面ではとても意味のある数字です。65歳になりますと肺炎球菌ワクチン接種の公的負担もあります。​

​終わり

自宅庭に咲くイキシアビリディフローラ​(自宅庭に咲くイキシアビリディフローラ 2022年5月)