ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ

本文

間質性肺炎の話をしましょう

ページID:0106762 更新日:2025年9月1日更新 印刷ページ表示

間質性肺炎の話をしましょう(4話完結)

第1話

間質性肺炎とはどんな病気ですか?

 2024年1月1日能登半島地震が発生しましたが、間質性肺炎で在宅酸素療法を受けておられる人たちが、電源途絶でご家庭に設置してある酸素濃縮器が使用できず、酸素難民となり、大変困った状態に陥りました。間質性肺炎が進行しますと慢性呼吸不全という低酸素状態となり、酸素吸入が必要となります
 東日本大震災が起きてしばらくして呼吸器の病気では希な肺胞蛋白症という病気が現地被災者に発生しました。粉塵暴露が原因ではないかといわれています。この病気は間質性肺炎の1種です。能登半島地震でも同様に肺胞蛋白症が発生するのかいなかを見極める研究が進められています。
 さて、間質性肺炎とは人から人にも感染しうる細菌性肺炎とは異なり、間質性肺炎の病気の患者さんからほかの人には感染しません。それでは、肺の間質とは何でしょうか?元来、細胞が実質で細胞と細胞の間を支えている(埋めている)ものが間質です。しかしながら、肺はガス交換の組織ですので、ガス交換を行っている肺胞腔が実質で気管や血管そして肺胞の薄い壁を間質と呼びます。ただし、肺胞腔と肺胞の壁の肺胞腔側の肺胞上皮細胞を含めて肺実質とする考えもあります。ともかく、その間質に炎症が生じる状態を間質性肺炎といいます。間質の炎症ですから炎症反応で間質は膨化してやがて線維化を生じます。線維化に注目して肺線維症ともいいます。同じ病気のステージの時期のどこに注目するかで病名が2つあるわけです。肺胞の壁が線維化で固くなり縮みもして厚くもなるわけですので、当然、吸入した空気の中の酸素が毛細血管へ移行するのに支障をきたします。毛細血管の中を血液は絶えず流れていて酸素と結合するヘモグロビンを含む赤血球は厚い壁を通してやってくる酸素が来るのをじっと待っている時間的余裕はありません。酸素を十分結合していない血液が肺から去って心臓に至り、全身をめぐることになります。すなわち低酸素血症に陥ります。​

どんな症状があるのでしょうか?

 しばしば咳症状で受診されることが多いです。が、咳が出る原因はさまざまですが、まだ、咳の出るメカニズムは不明の点が多いです。最近になって、空気を通す気道に分布しています迷走神経のC繊維に存在するP2X3受容体が炎症によって刺激されて咳を誘発するという機序も分かってきました。このC繊維は肺胞隔壁内にも存在しており、間質の炎症や線維化による壁の硬さなどの物理的変化が関与しているかもしれません。咳症状は男性よりも女性にやや多いです。咳が出るため、人前に出るのがおっくうになり、人との交流が減り、活動範囲も狭まり、日常生活に支障をきたすようになることがあります。咳は痰が伴わない空咳です。痰を伴う咳の場合はたばこ病のCOPDや慢性気管支炎、肺炎、そして気管支喘息、気管支拡張症や非結核性抗酸菌症などきわめて多くの呼吸器の病気の共通症状となります。
 咳症状に続いて息切れもこの病気ではよく認められます。ただし、病気初期にはほとんど息切れを感じません。かなり後に出現しますので、息切れがでて受診されますと、初期ではないであろうと推測します。息切れは、身体を動かすときに出やすいです。この理由は後程紹介します6分間歩行テストのところでお話します。(微)熱が出ることは、まず、ありません。が、風邪や気管支炎などの呼吸器感染症が合併しますと発熱します。そんな場合は、早めの受診をお勧めします。実は、間質性肺炎が急に悪くなる時があります(急性増悪といいます)。急性増悪は気道感染や天候の急変、ストレスなどで生じます。しばしば、救命できない場合があります。​

第2話

何故間質性肺炎になるのでしょうか?

 たばこ喫煙、粉塵(有機粉塵による過敏性肺炎、無機粉塵によるじん肺アスベスト・珪肺など)、膠原病、薬剤、放射線治療などが原因として知られています。が、原因不明の間質性肺炎としては特発性肺線維症やサルコイドーシスなど、さらに特発性胸膜肺実質線維弾性症も知られています。そのほか、比較的希な肺胞蛋白症や遺伝性の間質性肺炎も報告されています。最近では、新型コロナウイルス感染後の間質性肺炎も知られるようになりました。
 大歌手の美空ひばりさんも特発性間質性肺炎に苦しみながら、ステージで歌を歌っていました。同じく、有名な矢代亜紀さんも膠原病の一つの皮膚筋炎に伴う間質性肺炎であっという間に亡くなられました。ささきいさお氏は間質性肺炎(どんなタイプなのかは不明です)の急性増悪から見事に復帰されました。間質性肺炎は今増加しています。多分、加齢と関係しているといわれていますので、高齢者が増えれば増えるほど、この病気は増えるでしょうね。そして、大気汚染も関係しているという報告も見られます。​

​​間質性肺炎の診断方法は?

 まず、どんな状況でこの病気を疑うかによって若干診断手順は異なります。健康診断や人間ドックで偶然発見される場合は胸部画像検査や肺機能検査でまず怪しいと考えます。空咳や息切れで受診された場合は、タバコ喫煙歴、粉塵作業従事歴をお聞きして、診察に入ります。まず、手指を見て太鼓のばちのような「ばち指」があるかを確認します。次いで、肺の聴診を行います。典型的な捻髪音(血圧計の腕に巻く布製バンドをはがすときに聞こえるバリバリという音です)が息を吸ったときに聞こえれば、まず、間質性肺炎として間違いはありません。この時点では、どんな間質性肺炎かはまだ不明です。次の手順として、精密な胸部高分解能CT検査を行います。この、CT画像で間質性肺炎の型をかなりの確度で推定できます。我が国では、血液検査で、間質性肺炎で高値を示すKL-6,SP-D,SP-Aなどを検索します。膠原病に合併した間質性肺炎の可能性があれば、膠原病に高値を示すことが多い血液マーカーを測定します。なお、肺機能検査は、間質性肺炎の診断ではなく、その重症度の把握に役に立ちます。
 第1話で息切れも主症状の一つとお伝えしましたが、息切れの程度の把握には、動脈血ガス分析検査が必須です。動脈血の酸素分圧と二酸化炭素分圧の値が分かります。しかしながら、この検査は実施する側に少し技術も必要で、患者さんも局所の痛みとそれに続く恐怖も出やすく、検査中に大きい息を吸ったり吐いたりされる場合があり、正確な安静時の値を求められない時もあります。間質性肺炎の指定難病としての申請には動脈血ガス分析検査を求められますが、日常臨床では、指先に器具を装着して酸素飽和度と脈拍を測定できる簡易酸素飽和度測定機器で検査を行います。簡単な痛みのない検査がいいですね。外来で安静にしていますと低酸素血状態(酸素飽和度90%を切った場合)ではない数字を示す場合も、6分間歩行し続けて酸素飽和度をモニターしますと、酸素飽和度が90%をはるかに下回る数字を示す場合が多いです。これを、6分間歩行テストといって、理学療法士さんが患者さんに付き添いながら検査してくれます。
 身体を動かし始めますとエネルギーを消費しますが、その際に酸素が必要になります。その酸素は空気中にありますから、沢山肺に空気を入れなければなりません。肺組織は硬くなって肺活量(肺の大きさの目安でもあります)も小さくなっていますから1回の吸気量は少ないですので、換気数も増やさなくてはなりませんね。
 それでも、酸素の供給は不足して、低酸素血症となってしまいます。
 少し歩いても息切れがしますので、徐々に動かなくなり、筋肉量も落ちてフレイル状態にもなりやすいですね。筋肉といいますと呼吸も息を吸うときに横隔膜などの筋肉が働きますが、息切れ状態で酷使し続けていますと呼吸筋も疲労してしまいます。呼吸の仕方や息切れ時の呼吸の方法などを呼吸リハビリテーションで習得するのも大切です。​

第3話

​​間質性肺炎にはどんな種類がありますか?

 第2話でも取り上げましたが、原因はさまざまです。が、残念ながら間質性肺炎の約6割近くは原因がいまだに不明です。この、原因不明を医学用語で「特発性」といいます。
 特発性間質性肺炎は、診断されたあとの生存期間が約3年と、極めて難治の病気でした。しかも、分類の仕方も微妙に変遷して、呼吸器科医でも診断に迷うことがしばしばでした。歴史的には、患者さんと外科医、病理医の協力を得て、この病気を疑う患者さんの肺病変の一部を切除(外科的肺生検といいます)して顕微鏡検査を行うという情報を集積して、ようやく、これらの病気の特性が明らかになり、治療対応策も定まってきました。
 現在、特発性間質性肺炎は細分化されて、6つの型に分類されます。その他の間質性肺炎の治療法も進化してきました。続きで詳しくお話します。

​​間質性肺炎の治療は?

 これまで、有効な治療法のなかった特発性間質性肺炎の治療は、低酸素血症改善を目的とした在宅酸素療法が主役でした。最も、特発性間質性肺炎の中でも特発性気質化肺炎(COPといいます)、特発性非特異性間質性肺炎(NSIPといいます)、呼吸細気管支炎関連間質性肺炎(RB-ILD)、剥離性間質性肺炎(DIP)はステロイド製剤の治療でうまくコントロールができる場合が多いです。また、膠原病やサルコイドーシスに合併する間質性肺炎もステロイド反応性がおおむね良好です。ただし、矢代亜紀さんの皮膚筋炎に合併した間質性肺炎は急激に進行してステロイド不応性で予後が不良です。膠原病の強皮症に合併する間質性肺炎もステロイド治療になかなか反応しません。有機粉塵が原因の間質性肺炎(過敏性肺炎など)もステロイド効果があります。一方、無機粉塵による珪肺やアスベスト肺の根本治療薬はまだ見つかりません。予防が唯一の対応策で、アスベストのお話でも触れましたが、じん肺法や石綿障害予防規則などの法律で対策が盛り込まれています。第1話にお話ししました肺胞蛋白症は肺胞に異常なたんぱく質が蓄積する病気ですが、特殊な抗体を用いる治療法が開発されて応用されています。
 間質性肺炎が進行すると肺の線維化が進み、肺が縮み、肺活量が低下して、ますます、低酸素血症となる経過でしたが、2008年抗線維化薬(ピレスパという名前です)の登場によって、漸く、進行を抑える治療法ができるようになりました。2015年にはもう1種の抗線維化薬(オフェブという名前です)が出ました。それぞれ、日光過敏症や下痢などの副作用もありますが、私も実際、患者さんに処方してみて症状の軽減や生命延長効果を感じられる薬剤です。
 間質性肺炎の型、種類が多いことを既にお話ししましたが、その中で、肺の進行性線維化がみられるものを一括して、進行性線維化を伴う間質性肺疾患と呼ぶ考えが出てきました。特発性間質性肺炎や膠原病に伴う間質性肺炎が含まれます。この疾患概念にあたる場合は早期に抗線維化薬を使用するよう推奨されています。​

第4話

間質性肺炎の合併症は?

 それぞれの型によって治療方針と治療反応性が異なるとお伝えしてきました。ただし、発見が遅れて進行してしまった状態では、元に戻ることは困難です。それぞれ見合った薬物療法を続けます。が、その経過で肺がん、肺炎、真菌感染という病気が顕れる場合があります。間質性肺炎という原疾患による肺局所の粘膜バリアーの欠損と免疫低下状態も基本に在り、ステロイド薬の使用も、免疫状態を低下させます。細菌やウイルス、そして真菌(カビ)感染にかかりやすい状態です。ですから、不用意な人込みに紛れるのはできるだけさけ、冬季には特にマスク、手洗いなどを心掛けることが肝要です。もちろん、タバコを吸い続けることはできません。
 特発性間質性肺炎の場合は上記の感染や天候の急変などで急激に病気が進行する場合があり、速やかに治療介入しないと死亡されることがあります。歌手のささきいさお氏は無事生還されましたが。
 合併症として見逃せないのは、肺がんです。胸部画像は間質性肺炎という異常陰影に満ちていますので、そこに、小さな肺がん陰影が顕れても、肺がんとはなかなか気づきません。気づいたとしても、肺機能が低下していますので、普通ならば手術可能の肺がんでも断念せざるを得ない場合がしばしばです。
 タバコも原因の間質性肺炎がありますと第2話で触れましたが、タバコ喫煙によって肺の上部分に気腫性変化がでて、肺の下部分に線維症の変化がでる型の間質性肺炎(肺気腫+間質性肺炎)が知られています。つまり上の肺は膨らみ、下の肺は縮むのです。間質性肺炎のほとんどは肺が縮みますので肺活量が減少しますが、この型の間質性肺炎の肺活量は一見減少の程度が軽いか正常です。がしかし、この型は他の多くの間質性肺炎と比較して高率に肺がんがでやすいことも知られていますし、肺高血圧症も合併しやすいと注目されています。間質性肺炎は多種に渡り、進行スピードも異なり、治療方針も異なり、診断にも工夫が必要ですので、少なくとも1度は呼吸器専門医のもとで診察を受けて、その後も、胸部CT撮影や肺機能検査を定期的におこない、経時的に比較するという対策が勧められます。​

​間質性肺炎は指定難病ですか?

 間質性肺炎でも胸部画像検査や肺機能検査で経過をみていても安定していて、症状もない場合は治療を開始しませんが、進行している場合は治療を開始します。ただし、抗線維化薬などの治療費は安くありませんので、患者さんに負担が重くのしかかります。高額医療費の払い戻し方法もあります。
 さらに、特発性間質性肺炎は厚生労働省の指定難病に指定されていますが、患者さんは動脈血酸素分圧の数値によって重症度分類(ステージ1から4まであります。4が最重症です)がなされます。現在は6分間歩行テストでそれを補えます。すなわち、動脈血酸素分圧の数値(安静時70~80mmHg)でステージ2と判定された場合も6分間歩行テストで酸素飽和度が90%未満に下がればステージ3と重症度が上がります。ステージ3以上は2024年から公費補助が受けられるようになりました。間質性肺炎関連の指定難病はサルコイドーシス、肺胞蛋白症、リンパ脈管筋腫症などもありますが、ここでは、説明を省きます。​

​終わり

自宅庭に咲くアマリリス(自宅庭に咲くアマリリス 2022年6月)